2024-10-02

Press Release

【Tech Japan Hub 導入事例】世界初3Dプリント義足スタートアップがインド高度エンジニア人材を採用する理由

必要とするすべての人が、義肢装具を手に入れられる世界をつくるーー。

2017年に創業し、フィリピンで事業を開始したインスタリムは、3Dプリント技術で作られた義足を提供するスタートアップです。着々と事業を拡大し、2022年にインド進出を果たしました。インドにおける義足市場は大きく、今後はインドをR&Dの中心に据え活動していくそう。

事業計画の成功に欠かせないのが、インドにおける人材採用です。現在、インスタリムは高度人材採用のかなりの数をTech Japanを通じて行なっています。グローバル市場で活動するにあたっての課題や、高度人材を採用する理由、採用後の変化についてうかがいました。

徳島 泰(CEO)
慶應義塾大学政策・メディア学科修士課程修了。2012年よりフィリピンに在住し、JICA青年海外協力隊として現地貿易産業省に所属。帰国後、3Dプリント義足ソリューションを開発し、2017年にインスタリムを設立。

足立 翔一郎(COO)
大学卒業後、ファブレスメーカーに就職し、新規事業立ち上げに従事。2017年、インドでダイエット食のオンラインデリバリーサービスBlufitを創業。2022年より業務委託として、2024年より正式に、インスタリムに参画。

今 信一郎(CTO)
東京工業大学院総合理工学研究科修士課程修了。2013年アイシン精機入社、機械設計およびディープラーニングなどのAI研究開発を実施。2019年よりインスタリムに参画し、自動設計AIアルゴリズム、3D-CADなどの開発を統括。

3Dプリント技術で低価格・高品質な義足を開発

ー事業概要を教えてください。

徳島:3Dプリントや機械学習(AI)技術を活用して、低価格・高品質な義肢装具と、その製造ソリューションを製造・販売しています。これまでに、フィリピン・インドで約4,000本の販売実績があり、市場シェアは年々拡大しています。2022年にインドに進出し、今年度からはウクライナにも事業参入していく計画です。

ビジネスモデルは大きく二つありまして、一つはクリニックビジネスです。患者さんに直接義足を販売しています。

もう一つは、他の義肢装具製作所さんへの義足製造ソリューションのライセンス供与と義足材料の販売です。これまでアナログで義足を作っていた製作所にデジタル義足製造ソリューションを提供することで、材料の納入からマネタイズまでをトータルでサポートしています。

ー社員構成はどうなっていますか?

今:全社で約200人が在籍し、業務委託も含め約30人が日本人、残りの170人はフィリピン人が70名・インド人が100名くらいです。フィリピン人の職種は製造とセールスが中心で、研究開発を担当するエンジニアはインド人と日本人が中心ですね。

徳島:現在、僕らはR&Dのかなりの部分を段階的にインドに移そうとしていて、インドで研究開発をする体制を整えています。これは現場の意見を迅速に反映するためです。

足立:インドにおける義足市場は大きく、我々にとって非常に重要です。ただ、全世界の義足患者の約1割にあたる500万人ほどがインドにいると言われていますが、実際に義足を持っている方はわずか7%しかいません。このため、まだまだ事業拡大の余地があります。

インドで事業展開する上で感じる課題とは?

ー義足市場が大きいこと以外にも、インドをプロダクト開発の中心に据える理由はありますか?

今:インドでプロダクト開発を行う方が、圧倒的にスピードが速いからです。

インドには「ジュガール」という言葉があります。これは「どんな状況でも、工夫を凝らして解決していこう」といった精神です。

例えば、日本人が100点を目指して立ち止まってしまう場面で、インド人はリスクもきちんと想定した上で50点60点でもいいから前に進もう、と考えます。自分たちのアウトプットを、どれだけすぐ現場や実際のアプリケーションに落とし込むかに大きな価値を置いているんですね。

もう一つは、やはり製造業なのでエンジニアが現地で実際に見て判断することの重要性があります。僕ら日本人も含めて、ちゃんと現場で物を見て考える必要性を感じていますね。

ーフィリピン、インドなどグローバルに事業を展開する上で、どんなことに難しさを感じますか?

徳島:製造業特有の、運転資金の問題はやはり大きいです。事業拡大に伴い、運転資金を調達しなければなりません。

また、義足はお客様によってカスタマイズする必要があり、それに対応できるエンジニアリソースも重要です。いかに適切な人材を採用し、人材獲得の資金を積み増していくのかは難しい課題です。

このため、インドに進出するタイミングで人事チームの強化に取り組みました。社内から優秀な人間をコンバートして、フィリピン・インドのローカルの人事部門を統括してもらいました。その後は、ローカルの人事メンバーも増強しながら、高速でリクルートし続け、現在も継続中です。人事が高速回転できるようになったので、インドではかなりスピードを上げての組織拡大が叶うようになってきました。

インドにおける高度人材採用の難しさと、採用後の変化

ーインドでの人材採用を進めるにあたって、難しかった点を教えていただけますか。

徳島:一番大きいのは、やはりエンジニアの給与交渉です。年間で5〜10%と、日本では考えられないスピードで上がっていきます。

このため、給与交渉に際して「この人が本当に必要なのか」と、毎年見極めなければなりません。必要であれば、給料が上がるものとしてバジェットを作る必要があります。

今:なぜこの給料なのか、言語化して明確に伝え、お互い齟齬がないようにする必要もありますね。この点では、日本以上に丁寧なコミュニケーションが求められます。

徳島:僕たちは日本で資金調達をして海外で事業展開しているので、円安に伴ってバジェットが減っていく問題もあります。

さらに、インドのルピーと日本円のインフレ速度の違いにも留意する必要があります。インドでは日本よりインフレが速く進んでいるため、従業員の給与がより速いペースで上昇しているんです。ただ、それはインドでの売上や利益も、より速いペースで増加していることを意味します。つまり、インドは私たちにとってより重要なビジネスエリアであるということです。

こういった採用活動を通して、インドで人材を雇用し、チームを強くしていくとはどういうことなのか、役員全員で学びました。

ーそのような難しさもある中で、インドの高度人材を採用している理由は?

徳島:複数領域にわたる開発を任せたいときに、優秀な人だとフルスタックで対応できます。スキルが単一の場合、問題が起きたときに対応できず、結局高くついてしまうことがあるんです。地力が高くて大学時代に鍛えられてるインド人たちは、特に僕たちみたいな会社だと、柔軟に働いていただけるので助かっています。

今 :エリート教育からくるものなのか、理想が高く、自分のやりたいことやキャリア展望が明確なので、コミュニケーションを取りやすいです。そういった人材にマネージャーになってもらい、ローカルメンバーを導き育てることを期待しています。

ーインドの高度技術者を採用したことによる変化はありますか?
足立:優秀なエンジニアを採用することは、事業計画が達成できるかどうかにダイレクトにリンクしています。重要なマイルストーンを達成するために、高度技術者の採用は我々の事業上、最重要と言っても過言ではないかもしれません。

しかし、自社だけで高度な技術を持つインド人エンジニアを採用することは簡単ではありません。その点、御社のサービスを利用することで、必要なリソースをスピーディーに確保させていただいています。

より多くの人に、義足を届けたい

ーインド市場における展望をお聞かせください。

足立:インドにおける義足ユーザーは約2割が中所得層以上で、8割は貧困層の方々です。私たちは、中所得層以上と貧困層、それぞれ別のアプローチをしています。

中所得層以上の方に関しては、基本的には自社で持つクリニックで義肢装具を販売しています。現在は、デリー、グルガオン、ハイデラバード、バンガロール、 ムンバイの5拠点ですが、今後は拠点を増やし、中所得層の方々に高品質かつ、エコノミカルな義足を提供していきたいです。

デジタル製造技術を用いてインドNo.1の義肢装具製作所になることが、中所得層以上の方に対するアプローチの展望ですね。

一方で、全体の8割である、600万人以上を占める低所得者層に対するアプローチは、NGOや公営企業へのライセンス提供の拡大です。我々のテクノロジーをライセンスして、同じ人数でより多くの方々に義足を提供することを目指しています。

ー展望を実現していく上での、課題はありますか。

足立:事業上の一番重要なポイントは、カスタマーサクセスですね。

現在、年間で3万〜5万本の義足が、伝統的な方法で作られています。我々の技術を使って制作いただいている義足の本数は、まだ1割にも満たないんです。カスタマーサクセスにきちんと取り組むことで、現場のニーズや課題をしっかりと掴み、この数字を100%に持っていくことを目指しています。CTOの今やCOOの私も駐在して、インド市場に本気で取り組んでいます。

インドで成功するために、必要な人材を求めて

ーインドの技術者に期待されていることはありますか?

徳島:インド人のエンジニアなくして僕たちの事業は成立しません。僕たちは、もうインドの会社としてやっていこうとしているというぐらいの気概ですので、僕たちがむしろインド人として頑張っていきます、とお伝えしたいです。インドをとてもリスペクトしていて、インドで成功していきたいです。

ーTech Japanに期待することはありますか?

今:徐々にローカライズは進んできていますが、まだ全貌が見えないことや、難しさを感じることも少なくありません。また、誰がプロダクトの決定権を持って、どこまで責任を持つのかなど、インドと日本で意識にギャップがあると感じます。

ソフトウェアだけではなく、ハードウェアの部分もだんだんローカル化してきているので、最後のクオリティまで担保できるエンジニアをご紹介していただけたら非常に助かります。

最初は業務委託でお勤めいただいて、お互いリスクを減らした上で本採用ができるみたいな…そういったことが、ソフトウェア、ハードウェアだけではなく、マーケティングサイドでも可能になったら嬉しいですね。