2024-08-08

Press Release

【イベントレポート】2024年7月9日開催「多面的に捉えるインドの機会:スタートアップ投資の機会・テクノロジー開発拠点としてのインド」

2024年7月9日(火)、東京TiBで開催されたIVS公式ポストイベント「Gate to India & Africa」において、セッション「多面的に捉えるインドの機会:スタートアップ投資の機会・テクノロジー開発拠点としてのインド」が行われ、弊社代表の西山がモデレーターを務めました。インドにおける投資の魅力、投資に至った背景や課題、最新のトレンド変化、インドでのテクノロジー開発拠点の可能性とその運営上のメリットや課題についてディスカッションした様子をお届けします。

<登壇者>

北國銀行 執行役員 竹内均氏

リブライトパートナーズ 代表パートナー 蛯原健氏

楽天インド法人 副会長 白石翼氏

Tech Japan 代表取締役 西山直隆

 

インドに投資をしないとういことは、経済のゲームに参加しないということ

 

西山:参加者の皆さんに興味のある話題について手を挙げてもらった結果、インド投資に興味のある方、インドで事業をやっていこうという方、インド人エンジニアの活用やインドでの開発に興味のある方がそれぞれ40%、40%、20%と満遍なくいらっしゃることがわかりましたので、それぞれについて話していきたいと思います。まずは投資の話から。蛯原さん、ずばり日本企業がインドに投資をする意味と、なぜ今投資すべきなのかというあたりを最初に教えていただけますか?

 

蛯原:逆に、なぜしないんでしょう。

 

西山:おお。

 

蛯原:しなければいけないはずなんですよね。経済成長を取り込むフィナンシャルリターンでもいいでしょうし、事業開発をして損益を連結するということでもいいですし。それをやらないということは、要は経済のゲームに参加しないと経営者が宣言しているようなもので、やらない理由がわからないというのが私の意見です。

 

西山:なるほど。「わからない」というご意見ですが、とはいえインド投資できていない企業さんはいらっしゃるわけで、そうした企業さんがインド投資できていない理由で多いものは何でしょうか。

 

蛯原:インドはハードルが高いほうだとは思います。日本企業にとって、例えば東南アジアなんかは歴史的にも古くからフットプリントがありますが、それと比べると、そもそもインドはアジアの国なのか問題があるくらい、かなり欧州っぽいところがあるんですよ。そのため、インド投資について簡単だと申し上げるつもりはありません。心配事もたくさんあると思います。でも、それでもやり続けなければならないということだと思いますね。

 

西山:そうなると、短期的に見るというよりは、長期に渡ってインドと向き合っていく必要があると。

 

蛯原:そうですね。私が説明する際は、「30年は赤字を垂れ流してでもやってください。でなければ無理です」とお伝えしています。

 

西山:例として、自動車メーカーのスズキさんもインドに市場があるかどうかわからないタイミングから入り込んでいるからこそ今があるといえますよね。それだけの時間を要するとなると、今からではむしろ遅いぐらいだといえる。

 

蛯原:いえ、いつでもとは思っていますけど、必ずやる。やると決めたなら諦めずに続けることですね。

 

西山:ありがとうございます。北國銀行さんは先日、事業会社としてインドのスタートアップへの投資を決められています。どういった背景、目的で始められたのですか?

 

竹内:蛯原さんがおっしゃったように、やらない理由はないという感じですね。ただ、実は我々はそこまでインド投資に前向きだったわけではないんです。そのなかでインド投資を決めたのは地方ならではの課題を解決したいためなんですよ。

 

北陸地域は毎年人口が減っていまして、自然人口減で1%、東京や大阪などに流出していく人で1%と毎年合計2%ぐらい減っています。そうなると産業も自然と縮小していくので、逆に成長しているところはどこなのかという視点を持って頑張っているんです。その成長しているところがインドであり、行かざるを得ないんじゃないかと判断しました。

 

最初は中国にも注目していたんです。上海に出していたり、深センに事務所を置いていたりしているんですが、深センに絡んで投資するとなると、最近はチャイナリスクもありますし、投資規制が厳しいということもある。我々のなかでも投資規制を含めいろいろ比較したのですが、ITへの投資を考えるとやはりインドは外せないといいますか、インド投資をやるしかないという結論でしたね。

 

西山:30年向き合えそうですか?

 

竹内:いけると思います。

 

西山:ありがとうございます。実は昨日もお話を伺っていまして、地方の元気がどんどんなくなっていく一方、インドがものすごい勢いでお金も人も集まって成長していくので、凸凹を合わせて地方に対して活力を循環していくことで、結果的に地方が元気になるんじゃないかという内容を聞き、地方銀行さんならではの観点でできる仕組みなのかなと感じました。

 

インドに開発拠点を設ける理由&インド人エンジニアのマネジメントの秘訣とは

 

西山:次はデジタル人材についてお聞きしたいのですが、北國銀行さんの現状をお聞かせいただけますか?

 

竹内:現在、グループの社員数は2000名で、うちデジタルバリューという子会社、銀行内のシステム部に300、400名ぐらいのデジタル人材がいます。今の採用人数の2割以上はデジタル人材ですね。

 

西山:それだけ採れているんですか?

 

竹内:頑張っていますが、限界に来ていますね。支店長より高い報酬を提示して集めたりもしているんですけれども。

 

西山:支店長よりデジタル人材のほうが報酬が高いんですか?

 

竹内:銀行員の報酬体系だと優秀なエンジニアは採用できないですよ。それでも厳しい状況なので、西山さんがやっておられるインド人材の方々に日本に来ていただくという手段が役に立つという話につながります。もちろん、インド人材の方の採用にもお金はかかりますが、やはり日本とは絶対数が違いますから。国内だけでは限界なので、広げていかなければと思っています。実はベトナムでオフショア開発もしているんですが、それでも足りないため、もっと大きなインドにも目を向けたという感じですね。

 

西山:開発の話をすると、皆さんベトナムが身近なようで、「ベトナムとインドとはどう違うんですか?」と聞かれることがよくあるのですが、ぜひこの辺りについて白石さんにお伺いしたいです。白石さん自身もアメリカにいらっしゃいましたし、楽天さんはベトナムやインドと世界中に拠点があります。ずばりどのような違いがあるのか、インドでの開発ってどうなのかというあたり、いかがでしょうか。

 

白石:楽天がなぜインドでテックセンターを開いたかの話をすると、2014年までさかのぼります。確かに、他社よりは早いタイミングだったのではないかと思いますね。当時の人数は6名で、2020年には2000名規模に拡大しています。私が携わり始めたのは2017年で、当時の規模が500~600名、インドのバンガロールに赴任したときで800名ぐらいでした。2年後に新しく建てているビルに入ろう、2000名まで増やそうという計画があった時期です。別にインドにフォーカスして人材を増やしていこうという決定が社内であったわけではなく、楽天としてはたまたまいい人材がインドで増えたという感じですね。

 

北米と西海岸にも拠点はありますし、アジアならシンガポールや中国は2カ所、ヨーロッパならフランス、アイルランド、あとはスペインにもあるわけです。そうしたなかで、たまたまインドと楽天との親和性が高かった。例えば時差ですよね。3時間半という時差が互いに心地よかったんです。アメリカ企業がインドで開発を行う場合、アメリカとインドは昼夜逆転する時差がありますから、アメリカ側が寝ているときにインド側に伝えておいたものを作ってもらうアウトソーシングスタイルなんですね。

 

それに対して、楽天はアウトソーシングではなく、一緒に上流工程からやっていこうというスタンスで差別化を図っているので、コアタイムをなるべく被らせたいんです。そのため、この3時間半という時差が意外とちょうどよかった。その結果が2000名です。この数が多いのかといったら、GAFAは万単位ですので、数を追うのではなく、どうやってクオリティを上げていくのか、どの国に広げていくのかを考えていかなければならないわけです。

 

必ずしもインドフォーカスしているわけではないのですが、楽天全体でざっくり6500名ぐらいのデジタル人材がいるなか、そのうち3500名ぐらいが日本、次いで2000名ぐらいがインドなので、そう考えると圧倒的な期待がインドにあるといえるでしょう。

 

西山:日本所属の方も外国籍の方が多いのでしょうか。

 

白石:Tech組織は60%は外国籍の方ですね。2011年に公用語を英語とすると発表して以来、英語を使えないと仕事にならなくなりまして、外国人エンジニアを世界中で確保しなければならなくなっています。

 

西山:その3分の1ぐらいがインドだと。

 

白石:そういうことになりますね。

 

西山:日本にも多くのエンジニアがいて、その過半数が外国人の方であり、すでに働いているインド人エンジニアの方もいらっしゃる。楽天さんのオフィスにはインド料理を出す食堂もあるんですよ。

 

ここでいいポイントが2つあると思っています。1つは日本で働くインド人エンジニアが母国に帰りたいと思ったときに、Rakuten Indiaに戻るというキャリアパスを作れること。もう1つは日本で働いていたことで日本文化、カルチャーを知ることができ、その人が行き来することで文化の浸透が叶うことです。

 

白石:おっしゃる通りです。弊社は2011年に英語の公用語化を発表してから、直接外国の学校に行って新卒社員を日本に連れてくるという活動をインド、アメリカ、ヨーロッパなどでやっているんですね。インドの方は家族を大切にしたい、国に帰って母国に貢献したいという方が多く、そうした方たちの受け皿に楽天インディアがなっており、キャリアのエコシステムが成り立っているというわけです。

 

僕の仕事は、3000名ほどいるエンジニアに一つひとつ指示を出すのではなく、現地にいるテックリーダー17名ぐらいと毎日のようにコミュニケーションを取り、いわゆるオペレーションや文化、考え方みたいなものを浸透させることです。僕らはマトリックスモデルと呼んでいて、横は横で楽天市場のリモートマネージャーが日本にいて、楽天ペイのリモートマネージャーが日本にいてとか、楽天リワードのリモートマネージャーがアメリカにいてみたいな、そういうマトリックスの管理がすごくうまくいっていると思います。

 

西山:インド人のマネジメントは難しいとよく聞くのですが、何か工夫はされているのでしょうか。

 

白石:エンジニアに関していうと、グローバルでの違いは製造業に比べるとないと思います。相手はグローバルでアメリカから戻ってきたエンジニアが多いので、共通言語が通じるといいますか、プロトコルがしっかりしていますので。ただ、やはり3日も話さないと少しずつずれていってしまうので、毎日同じフェーズ、同じ状態でいられるよう心がけています。

 

西山:時間はどれぐらいですか?短くてもいいのでしょうか。

 

白石:そうですね。日次ベースだとチャットでも電話でもいいんですが、基本的に毎週30分は1on1をやっていますし、毎月こちらが行ったり向こうに来てもらったりして、齟齬が出ないようにしています。

 

西山:時間というよりも頻度を高く。

 

白石:ええ。僕の仕事の3分の1がこれです。かなりしんどいのですが、やらないとあとで自分に返ってくるので、頑なに重視しています。

 

西山:ありがとうございます。今日はオーディエンスにメルカリグループの元CTOの若狭さんがいらしています。楽天さんがアイコニックな存在ではあるんですが、スタートアップの方がベンチマークしようという会社がまさにメルカリさんであり、そんなメルカリさんが少し前にインドに開発拠点を立ち上げられるということで、まさにその立ち上げに携わった方です。ぜひ開発のところや立ち上げ時にどうマネージしてきたのかみたいなところをお聞きしたいのですが。

 

若狭:無茶ぶりをされて驚いています(笑)。メルカリのインド拠点開発は先輩である楽天を見ながら進めました。ITはプロトコルがあるというのはおっしゃる通りで、そういう意味では製造業に比べるとポータブルスキルはあるので、インドタレントの量と質を取りに行きやすいのではないかと思います。

 

西山:コミュニケーションについてはいかがですか?

 

若狭:そうですね、白石さんがおっしゃっていた通り、私が見ていたときもリーダーとはほぼ毎日コミュニケーションを取っていましたし、日々のピープルマネジメントに関しては現地のディレクターやマネージャーに任せるよう心がけていました。ストラテジーの話とピープルマネジメントを分けて考えていましたね。

 

西山:無茶ぶりに応えていただきありがとうございました。

 

まずはインドに行くこと、打席に立ち続けることが重要

 

西山:インド歴の長い蛯原さんはインド投資を始めて10年が経ちますよね。この10年投資されてきたなかで見えてきた最近の変化やトレンドについて伺いたいです。インドのスタートアップ側もそうですが、インドのスタートアップに投資したい日本企業がまず声をかけるのが蛯原さんだろうということで、日本企業側の変化についても何かあればお聞かせいただきたいなと思います。

 

蛯原:明確な変化は2つあります。1つは、スタートアップ冬の時代と言われてはいますが、コロナ禍により世界中でバブルが起きました。アメリカやインドはそのなかでもハイプの山が大きく、瞬間風速で4兆円の資金調達をしているんですが、急激に前年比7割減くらいになり、多くの企業がユニコーン落ちしていますし、倒産した会社もあれば、リストラも起きています。3年前とはもう真逆の状態なんです。ただ、それでも始めたころと比べるとそれでも大きい。私はというよりも、日本の初期のアーリーインベスターとか、白石さんのところみたいに地域課題を持って取り組み始めた会社さんたちが入ってきたときよりはということですね。ただ、直近の部分ではそんな状況です。

 

日本企業の変化は、もう明確にインドに取り組まない選択肢はないと判断するところが増えたことでしょう。ただ、やり方がわからないために二の足を踏んでいるという企業はいらっしゃいますけどね。私は2014年にインド専門ファンドとしては1号目を設立していて、その前に東南アジア向けファンドを立ち上げているのですが、東南アジア向けとは違ってインド専門ファンドを立ち上げたときは「は?」という顔をされていて、キワモノの印象を抱かれていたんです。それが、今は「とりあえず興味はある」といったように真逆の反応が見られるようになったと感じています。

 

西山:ありがとうございます。最後に皆さんに一言ずついただきたいと思います。白石さんには開発視点で、蛯原さんにはインド投資を考えている方がやるべきことについて、竹内さんにはこれから事業を始めるなかで何をすればいいのかについて、アドバイスやメッセージをお願いいたします。

 

白石:まずはインドに行ってください。インドといっても、都市によって大きく異なるんですよ。北から南まで複数都市を巡っていただくと、それぞれの違いも見えてくると思います。あと、こういう場も活用して、我々のようなインド好きの人たちともっと会話していただきたいですね。そうするともっとインドに行きたくなると思います。

 

蛯原:最初にやるべきこととして皆さんに申し上げているのは、全部やりますよと。つまり、少額のベンチャー投資も大規模M&Aも我々ベンチャーキャピタルに対するLP出資もジョイントベンチャーも全部やるということですね。とにかく打席にたくさん立って勝ち筋を見つける。やはり新規事業や新規リージョンの開発はベンチャーとしても失敗確率が高いので、めげずに続け、大きな果実が得られればいいのです。

 

投資家やファミリーオフィス、個人投資家の方は、なんでもいいので資産のなかにインド系を入れましょう。スタートアップ経営者がやりやすいのはエンジニア採用だと思うので、そこは西山さんや白石さんにお聞きください。

 

竹内:白石さんがおっしゃっていたように、やはりまずはインドに行くことですね。私も今月末に初めてインドに行ってくる予定です。地方が疲弊しているなか、まだ資金も産業もあるうちに早くインドになじみ、融合することで地方に新しい産業を融合させて引っ張ってこられるのではないかと思っています。時間がかかるとは思いますが、その第一歩を早くすることが大切なのではないでしょうか。

 

西山:インドに行くこと、そして打席に立ち続けることですね。インドでも大きなイベント、カンファレンスが年に数回開催されているので、そのタイミングで行っていただけると幅広く見られるのではないかなと思います。私は今インドに住んでおり、今回はインドから参りました。インドの南部、バンガロールという地域に住んでおりますので、ぜひインドにお越しの際はお声がけをいただけますと嬉しいです。本日はありがとうございました。