TechJapanでは、インド⼯科⼤学等と連携した新卒採用をサポートするプラットフォーム「TechJapnHub」を運営しています。TechJapnHubでは実際にどのように採用を進めていくのか?どんな成果が出ているのか。パートナーサクセスを担当し、日本企業に伴走する新井健士さんに伺います。
新井 健士 (Kenji Arai)
<プロフィール>3歳までタイ、バンコクで過ごす。青山学院大学を卒業後、展示会や国際会議の企画・運営を行う外資系企業に入社し約10年勤務。その後、Webマーケティングを行う企業に転職し、英会話スクールの運営をはじめ、高度インド人エンジニアの採用事業サービスの立ち上げに従事。2022年、TechJapanに入社しパートナーサクセス部門を設立。
ーはじめに、Tech Japan Hubのサービスと、その中での新井さんの役割について教えてください。
インド⼯科⼤学(IIT)等の優秀なインド人学生の新卒採用を行えるプラットフォームです。短時間の面接だけで採用すると、ミスマッチが多く発生してしまい定着が難しい場合が多いため、インターンシップを通じて学生の特徴やスキル感を見ていただいたのちに採用の意思決定ができるプロセスをとっています。
私は企業様のHubのご利用が決まったところから、候補者の選定、面接へのアテンド、採用のオファーや採用後のフォローまで、一括してお手伝いしています。
お客様は、中小企業から上場企業、スタートアップまでさまざまで、業界もロボット、AI関連、建築関係など多岐にわたっています。みなさんほとんど外国籍の人材を採用したことのない企業様です。一方で、日本でエンジニアを募集してもなかなか優秀な人材が集まらず、インド人エンジニアの優秀さを知って採用したい、あるいは、数年後のインド市場への参入を見越して、人材の確保、獲得に動かれる企業様も増えてきました。
インドの学生は、学外のハッカソンや企業のプロジェクトに積極的に参加し、自分で考え主体的に動ける方が多いです。実際に採用いただいた企業様からも、想像以上に優秀な人材に出会えたという声をいただいています。
ーサービスを利用すると、具体的にどのような流れで採用を進めていくのですか。
サービスのご利用が決まったら、まずは全体のスケジュールを弊社にて設計します。並行して、企業様と共に求人票に記載する内容を検討して、システムにアップしていきます。システムにアップされた情報はすぐに大学の就職課を通して学生に展開され、母集団形成のスタートとなります。
インドは各大学が独自の採用ルールを設けており、企業が個別にやりとりすると時間がかかってしまいます。Tech Japan Hubは全大学に対応した統一フォーマットを使用するので、契約から約1~2週間で母集団形成を始めることができます。
大学への告知が終わると、ヒアリングミーティングを開きます。企業様がインターンで期待していること、採用したい人数やほしい人物像などを深掘りして伺っていきます。それに基づき、面接やインターン実施をスケジューリング。企業様によっては、オンラインでのテストや会社説明会を設ける場合もあります。
その後、実際の選考が始まります。日本市場でのエンジニア採用とは異なり、1〜2週間で100名を超える学生からご応募いただくため、Tech Japan Hubのスクリーニング機能や、弊社に在籍するIIT卒業生の目線を通したスクリーニングにより、多数の応募者からマッチ度の高い応募者の選定をサポートしていきます。選定を終えたら、面談のアテンドからインターンシップのオファーに進んでいきます。そして、書類選考を通過した学生に対してインターンシップを実施し、本採用を出す流れです。インターンシップはオンライン、オフラインどちらも実施可能で、学生に日本にきてもらって実施している企業様もあります。
採用を出してから入社までは1年ほど期間があるので、その間の企業側と学生側との関係性の維持・向上もサポートします。インドと日本は時差と距離があり、日本の新卒と同じように対応していると学生側が不安になってしまうケースがあります。そのため、インターンを継続したり、月毎にミーティングを開いてお互いの状況を共有できるようにしたり、コミュニケーションツールを用意したりと、不安を解消したり、不安な気持ちになるのを未然に防いだりできるようサポートに努めています。アクティブな学生が多いので、学生側から企業にコンタクトしている例が多いですね。
また、インドは両親との関係が強いため、必要、状況に応じてば親御さま、学生、企業様、TechJapanの四社ミーティングを実施したり、日本への興味を促したり、日本の商習慣を知っていただくためにワークショップやオリエンテーションを開催したりいたします。採用後の言語面で不安がある企業様には、弊社提携のベンダーをご紹介して、日本語研修を実施いただくことも可能です。
IITの学生は、優秀な方であればあるほど世界中のさまざまな企業から引く手数多です。過度な締め付けや押しつけをすると窮屈さを感じてしまう場合もあるので、バランスをとりながら伴走していきます。
ーどのような採用事例がありますか。
例えば、長崎県で建設業をされている中小企業様の事例です。特に日本での採用に困っている訳ではありませんでしたが、より優秀な人材をとサービスをご利用いただきました。
ただ、英語を話せるのは社長お一人で、海外人材の受け入れ経験はなし。インドの学生は先輩やシニアを頼る傾向にあるのですが、メンターとなるような先輩もおらず、IITの学生が入ってうまく機能するのか不安もありました。
その企業様では書類選考、面接で4人を選び、オンラインでインターンを実施。社長と常務が直接マネジメントに入りました。開始時はテキストベースでコミュニケーションを取られていました。業務に関してはお互いに翻訳ツールなどを用いて、コミュニケーションが取れていましたが、しばらくすると学生側から企業の方々ともっと交流したいという要望があったのです。
そこで企業様とも話し合い、週に1回、Face to Faceのオンラインミーティングを導入しました。表情が見えることで意思疎通できる部分もありますし、テキストでは聞きにくい込み入った質問をしたり、学生間でのコミュニケーションを促進したりできると考えました。
定期的にコミュニケーションする機会を作ったことで、より忌憚ない意見を言い合えるようになったり、学生ならではのやんちゃな部分も見えたりするようになって、信頼関係が深まっている様子がうかがえました。私もミーティングに同席させていただく中で、最初の頃は社長や常務が日本や長崎についての紹介などをされていましたが、だんだん学生たちが自ら業務の相談や細かい技術の話をするようになるのを目の当たりにしました。盛り上がって、ミーティング時間が延びることもありました(笑)。
企業様とは、インターンの段階から採用後のお話をさせていただき、来日まで、その先の活躍までをイメージいただけるように努めました。その結果、インターン終了後に、特にパフォーマンスを発揮された2名に採用のオファーをお出しいただきました。
代表や上層部の方が肩書きや立場に関係なく、垣根のないコミュニケーションをとってくださったことが良かったと感じています。インドの企業ではトップが学生とやりとりされることがほとんどないので、学生にも響いたのではないかと思います。言語の壁はありましたが、それ以上に自身で勉強し成長していくインド人材の良さを感じていただけました。インターンをしたからこそ、個人の特徴や能力が見えて良かったと言っていただいています。長崎県でインド高度人材を採用した企業は初めてだそうで、来年度の採用のお話も始めています。
ー求人から入社後のフォローアップまで担当される中で、新井さんが心がけていることはなんですか。
鮮度と頻度ですね。できる限り相談や問い合わせにはすぐに対応し、フォローできるようにしています。企業様に対してもそうですし、インドの方々は疑問を解決しないと不安になりやすい特徴もあるので、素早い対応とコミュニケーション回数の確保を心がけています。
採用の工程の全体像、ネクストアクションがわかりやすいように工夫もしていますね。企業様、学生双方の負担をなるべく軽くし、スムーズにいく形を考えています。
加えて、ミスコミュニケーションにならないように気をつけています。例えば、インド人学生の質問や要望が、日本企業の方からすると強く聞こえたり、わがままに感じられたりする場合があります。言語的な違いや文化的な背景の違いによるものです。そのため、質問は一度TechJapanで受け付けて、誤解されないよう咀嚼して企業様にお伝えしています。
違いがあるからこそ、お互いが歩み寄ることが大切です。日本人の良さがある一方で、競争社会で生きてきたアグレッシブさや行動力など、インド人だからこその良さもあります。彼女、彼らの持つその魅力は、日本の規律やルールで押し込めてしまうとうまく発揮されない場合があります。インド人の持つ良さを失わず、最低限のルールを守ってもらえるよう、調整していくことが重要だと考えています。
ー採用担当者、インド人学生側、双方の立場で支援されているんですね。新井さんがこの業務に携わるようになった経緯を教えてください。
私はもともと展示会や国際会議の主催、企画運営を行うイベント会社で働いていました。1年がかりでやる国際的なイベントなども担当しやりがいを感じていましたが、リアルだけでなくオンラインのイベントにも知識を深めたいと思うようになり、Webマーケティングの会社に転職。さまざまな事業をやっている会社だったので、結局、街コンや英会話スクールのイベント事業などリアルなイベントを担当する機会が多かったですね。
そのうち、インドの優秀な人材を日本に紹介する新規事業を立ち上げることになり、その担当者に選ばれました。2018年の冬頃からインドのバンガロールに渡り、現地責任者になったのです。大学とのやりとりや学生のフォロー、日本企業のアテンドなど、今の仕事に近いことを現地で行っていました。
そんな時、新型コロナウイルスが流行し始めました。インドでは1日40万人がコロナに感染している状況で、ロックダウン、非常事態になりました。海外の駐在員は私が初めてだったので、会社には緊急時のノウハウがなく、自分で考え生きていかなければならない状態。食べ物なども買えなくなってきて、どう生活すればいいかわかりませんでした。そんな時、インド人の方々に助けてもらったのです。
当時の会社のインド人メンバーだけでなく、インドの学生や提携大学の人々も連絡をくれ、サポートしてくれました。隣人がご飯を作りに来てくれることもありました。街に日本人は自分だけだったので、顔を覚えてくれていて、心配して手助けしてくれたのです。すごくありがたかったです。インドの人々に恩返ししたいと感じました。
その後、なんとか帰国したのですが、新規部署への異動の打診をいただきました。自分としてはインドでやり残したことがあり、インドの事業に携わっていたい思いがありました。それでTechJapanに入ったのです。学生たちの支援をすることで、インドの方々に大変な時にサポートしてもらった恩返しができればと思っています。
ー最後に、今後の展望を教えてください。
日本企業の皆様に継続的に利用いただけるサービスにしていきたいです。インドの学生を採用いただいた社数が増えてきたら、企業同士や学生同士の横のつながりも作っていきたいですね。会社の規模や業種などでコミュニティを作って、イベントなどを開催しながら、インド人、TechJapanのファンを増やしていきたいです。
インド人の経験者採用を支援するTechJapanJobのサービスでは、登録いただいているインド高度人材の方々と定期的にカレー会を開催しています。こうした日本企業で働く先輩方のコミュニティとも連携して、インド人が日本企業で働きやすい環境を作っていきたいです。
インド人はジョブホッパーだというイメージをお持ちの方もいらっしゃいます。キャリアアップのための転職は避けられない一方で、採用時にしっかりお互いを知ってから入社し、フォローアップしていけば、ミスマッチによる離職は防げます。組織に定着するにはどうすればいいかも伴走しながら考え続けていきたいですね。
インド高度人材の採用を検討されている企業様は、言語やマネジメント、受け入れの準備など、不安だらけだと思います。TechJapanには、社内にIIT卒で日本企業で働いた経験を持つインド人エンジニアもいますので、さまざまな不安をお伝えいただき、解消していければと思います。
実際に、採用がきっかけになり社内をグローバル化しよう、英語を勉強しようという変化が出てきた企業様もいらっしゃいます。できない理由を考えるよりも、まず不自由や不都合さを楽しむ気持ちで、やってみて欲しいと思います。変化を楽しみながら、一緒にトライしていきたいですね。私たちのサービスは、今やっているものが全てではありません。今後も、企業様ごとにカスタマイズして、新しいサービスの形を生み出しながら伴走していきたいです。